まえがき
偶然のきっかけから、私は120枚RTAプレイヤーであるバトラ氏に1年ほどアドバイスさせていただいている。
※バトラ氏は「コーチ」と言っているが、軽くお手伝いさせていただいているだけで、そんな大層なことはしていない。
RTAコミュニティで、私がやっている技術コーチ的なことをやっている人はなかなかいないと思う。(かなりレア?)
せっかくなので、この自身の経験から、『RTAに技術コーチ的な存在は必要なのか?』を論じてみる。
結論: 技術コーチはいたらいたで恩恵がある
私なりの結論は↑の通りである。理由は以下2つから成る。
理由1: より幅広い知識から選択できるようになる!
知識というのは、マリオ64RTAで言えば、
「ここはスティックを真右くぼみに倒すとより簡単になる」
「ここは〇〇というルート・アプローチもある」
といったコツや選択肢のことだ。
特に120枚RTAは、このような知識を多く持っているほど得をする。
なぜならば、知識が多いほど、その幅広い知識から自分に合ったものを選び取れるからだ。これが結果的に動きの安定性などに繋がるわけだ。
ただ、残念ながら、この世に存在する知識の全てが走者間で共有されているわけではないし、また、時間は有限である以上、1人で調べるのにも限界がある。
つまり、1人でRTAしているだけでは、どうしても知識が不足気味になってしまう。
だからこそ、人一倍知識を持った技術コーチがいて、その存在から色々教えてもらうだけで結構変わるのである。
もちろん、自身の身内(走者)の中で様々な知識を共有できるのなら、この点はメリットにはならないと思う。
理由2: 時間効率が上がる&詳しい分析ができる!
技術コーチがいることの最大のメリットは、やはりこちらにあるだろう。
例えば、以下のような行動をするRTAプレイヤーは結構多いと思う。
(1) 配信で記録狙いをする
↓
(2) 配信を終えた後、どこでミスしたかを洗い出す
↓
(3) なぜミスしたかの分析する
↓
(4) 分析結果を踏まえて練習し直す
これを1人で行なう場合、(1)(2)(3)(4)の時間をモロに消費することになる。
特に(3)(4)は重い腰が上がらない行動のひとつで、場合によっては「次失敗しなければいいや」と分析を放棄してしまうのではないだろうか。
だが、技術コーチがいる場合、走者が記録狙いをしている間に、(2)と(3)をやってもらえるのだ。言い換えると、走者は(1)と(4)をやるだけで済むのである。
時間は有限なので、走者としてはできる限りRTAの通しに時間を当てたほうが良い。なので、この点は大きなメリットになると考えられる。
さらに、(3)に関して、技術コーチがいれば、細かいミスまで詳しく分析できる点もまた大きいメリットだろう。
走者だけだと、さっさと通しをやりたい気持ちから、大きいミスしか分析しない上、分析自体も浅いものになりやすいと思う。
だが、技術コーチがいる場合、全てのミスを1フレームずつ見返した上で、ミスを再現して原因の予想を立てるところまでやってもらえるのだ。
走者からすると、こういう支援は非常に助かるのではないだろうか。
その他、例えば、走者が記録狙いをしている間にミスした場合。
技術コーチ側でミスした原因に心当たりがあれば、リセットしている間にそれを伝えることで即時修正することもできる。
上記の内容は『特定の走者に対して支援(アドバイス)する人』がいるからこそできるものであり、間違いなくアドバンテージになる。
以上2つの理由から、私は『技術コーチは必要かどうかは不明だが、いたらいたで恩恵がある』という意見に至った。
特に本気で世界記録or上位記録を狙う場合なら、技術コーチの恩恵はより大きくなると予想している。
注意点: ただコーチすれば良いわけではない!
前セクションでは、走者の視点から『技術コーチの存在』を説いた。
これだけだと、「じゃあ技術コーチがいたほうが良いのね」となるかもしれないが、実は、ただいれば良いというものでもないのだ。
本セクションでは、技術コーチの視点からの注意点を話す。
注意点1: 親子の関係になるとダメ(だと思う)
皆は『コーチ』と聞くと、
「コーチが教える → 走者が教えられた通りにやる」
といったラジコン操作のような、親子のようなイメージするかもしれないが、これはダメな関係だと私は考えている。
それはなぜか――コーチが実際にRTAをするわけではないからだ。
コーチ的には「これがやりやすいな~」というコツがあったとしても、走者がそのコツがやりやすいと感じるとは限らないのだ。
だから、親子の関係の場合、最悪コーチのアドバイスがマイナスの働きをする可能性も出てくるのである。
では、どういう関係が良いかというと、
「コーチが複数の選択肢を教える → 走者が自分自身で試し、選択肢のひとつを選び取る」
という、あくまでコーチは支援に徹する関係だ。
これにより、走者はより自分に合ったルート・アプローチなどを選択できるようになり、そしてそれが結果に繋がる。
RTAでは、走者に一番合ったものを選ぶのが正解なので、この関係が最も良いと考えている。
注意点2: 走者に対して期待しすぎない
これはマインドに関する注意点であり、コーチする上で最も重要な注意点だと考えている。
皆は学校や会社で一度はこんな経験(ジレンマ)をしたことがあるのではないだろうか。
――「後輩・同僚に対して一生懸命教えているのに、ぜんぜん教えた通りにやってくれない!」
RTAにおけるアドバイスも、ヒートアップするとこんなジレンマに陥ることがあるのだ。
このジレンマは相手に対する期待から生まれると考えている。「〇〇さんなら絶対できるからやらないのはもったいない!」みたいな。
でも、よく考えてみてほしい。
誰しもやる気が出ない時は必ずあるのだ。そんな時に熱心に色々アドバイスされても、なかなか実行に移せないのは仕方のないことだと思う。
だからこそ、走者に対し変に期待せず、
- 走者がやる気に満ち溢れている時はこちらからも色々アドバイスし、
- 走者がやる気がなさそうな時は聞かれたことだけアドバイスする
といった具合に、コーチが走者の温度に合わせるべきなのだ。
そうすることで、ジレンマに陥るのを回避できるし、走者も気分よくRTAできる(と思う)。
もしあなたがコーチをすることになった場合は、『あくまで主役は走者であり、コーチは脇役』ということを強く心に留めておく必要があるだろう。
むすび: 論じてみたものの……
今回は『技術コーチ的な存在は必要なのか?』と『コーチする上での注意点』を論じてみた。
本当は実際に行なったアドバイス(具体例)もいくつか紹介したかったのだが、書くのが面倒になったので省いてしまった。その点は許してほしい。
さて、色々意見を述べたものの、そもそもRTAの技術コーチはマリオ64ぐらいでしか成り立たないかもしれない。
というのも、技術コーチは走者よりもRTAの知識を持っていないとできないわけだが、
「走者よりも膨大な知識を持っているのに、RTAはしないよ」
なんて人は、他ゲームのRTAではゼロに近いと思うからだ。もしかしたら、私だからこそ成り立った可能性も無きにしも非ず。
今後、RTAの競技性が増した場合、e-sportsのように『RTAのコーチ』という概念が確立する可能性もある。
その場合は、コーチという肩書きを誇るのではなく、走者の記録を伸ばしたことを誇るようなコーチが増えてほしいと切に願っている。